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語るのはH大のF教授だ。
R政権下でCEA委員長を務め、F流の「小さな政府」をめざしたのに、いまG語が口をついて出る。
「第一のリスクは賃金上昇からインフレが進みFRBが利上げに追い込まれること。第二のリスクは住宅バブルの崩壊で景気が減速すること。
第三にドルをめぐるリスクだ」。
こうしたリスクが回避されることが軟着陸の条件だとみる。
「大丈夫だ」と言いきるのはP大のA教授である。
共和党系のF教授が慎重なのに、民主党系のB教授が強気なのは皮肉だ。
「最悪期は終わった。住宅価格の下落は消費にそう響かずにすむ。
原油価格も下落に転G。二つの障害は乗り越えられる」
米国経済のアキレス健である経常収支の赤字拡大をめぐっても見方は分かれる。
悲観派の代表、モルガン・スタンレーのR氏は警告する。
「恐ろしい問題だ。
背景には貯蓄率ゼロがある。いま何も起こっていないからといって問題を無視するところに本当のリスクがある。
ドルが急落すれば中国などに影響は大きい」
別の見方もある。
クレディ・スイス・ファースト・ボストンのN氏は指摘する。
「米国が経常収支赤字を抱えてきたことは世界経済に好都合だ。
中国などに機会を与え貧困から救った。
大成功の対外援助だ。ドルを世界に供給し世界経済を繁栄させた」
あとを継いだB議長はF教授が求める「ルールに基づく金融政策」に転換するのか。
FRB副議長を務めたB教授は「彼はGではない。彼は英語で語り、Gは暗号でしゃべる」と前任者との違いを説明する。
そのうえで「市場を驚かさないような緩やかなインフレ目標を採用するだろう」と見通す。
いまの米国経済を二人の巨人はどうみるだろうか。
R以降の米国経済は規制緩和による市場の自由が主流だった。
その点で「Fの時代」だったといえる。
F流の浸透を教授は「まずまず」とみるか、それとも「まだまだ」というか。
G教授なら米国経済の矛盾拡大に警鐘を鳴らすだろう。
「神話と現実を見誤るな」と忠告することも忘れないはずだ。
強さのなかにもろさは潜む。
米国経済の光と影は、急拡大するグローバル経済にも投影される。
異端を超え経済学を超えた二人の思想家の言葉は、そびえたつ両Kの灯台のように、さまよえる船に針路を指し示すことだろう。
米国経済が持続力を保てたのは「この二十六年間、FRBがインフレを先手先手で制御してきたからだ」とE氏は分析する。
もっとも、金融政策の成功はF流が生かされた結果ではない。
マネタリストの手法はP時代に一時的に採用された。
A議長はF教授が批判した「裁量的金融政策」の名手だった。
揺らぐ改革日本がさまよい続けている。
K政権でいったんは不良債権処理を終え「改革」に船出したが、A、F政権と足踏みしている。
グローバル経済の改革大競争のなかで、日本の改革の遅れは際立っている。
このままでは、再び「失われた時代」に逆戻りしかねない。
一九九○年代、日本はバブルのおごりから、一転してデフレの時代に陥り、さらにアジア通貨危機と連動する形で深刻な金融危機に見舞われた。
この「失われた時代」から脱出するうえで、K政権下でのT経済財政・金融担当相による「改革路線」は意義があった。
しかし、デフレ下の改革には厳しさもつきまとった。
K改革も結局は「急進改革」とはいえず、現実的な「漸進改革」にとどまった。
郵政民営化で「金融社会主義」に終止符は打ったが、それは戦後システムからようやく抜け出したにすぎない。
改革を成長にどうつなげるか。
成長を財政再建にどう結びつけるか。
論争だけは盛んだが、少子高齢化社会を前に肝心の成長戦略はいつまでたっても固まらない。
アジアを中心とするグローバル経済の成長の息吹をどう取り込むかが課題だが、外資誘致はあまり進まず「鎖国」から抜け出せない。
政局混迷で、改革路線は後退している。
成長・税制・年金の「三位一体の改革」が実行されない限り、「忘れられた日本」の汚名に甘んじなければならなくなる。
Bら米国選抜チームが来日した一九三四年、日本経済は昭和恐慌から脱出し回復に向かっていた。
それから七十年、G、Mを擁するニューヨーク・Yチームを迎えた日本の春は、長かった平成デフレ不況の出口にさしかかっている。
昭和恐慌から脱出できたのは、I蔵相の清算主義から高橋是清蔵相のリフレ政策に大胆に政策転換したからだった。
では、平成デフレ不況からの脱出は、K改革が先導したのだろうか。
「改革なくして成長なし」の掛け声が実ったからだろうか。
K改革を担うT経済財政・金融担当相はまるで老練な政治家のように慎重だった。
口をついて出る言葉は「プラグマティック(実際的)」である。
経済財政諮問会議の民間議員の間に「そろそろ失われた時代の終結宣言を出してもいい」という声が出るなかで、T氏は「失われた時代が過ぎ去ったとは思わない。
十年かかった問題の解決には十年くらいの歳月がかかる。
そういう心がけが必要だ」と言葉を選ぶ。
急進改革派だったはずのT氏は変わった。
昭和恐慌からの脱出は司令塔の交代によったが、平成デフレ不況からの脱出は司令塔自身の変身によってもたらされようとしている。
それは急進揺らぐ改革脱デフレの旗を振るIN銀副総裁は金融、財政の組み合わせを重視する。
「金融の量的緩和とゆっくりした財政立て直しを組み合わせる。財政規律を保ちつつ時間をかけて本源的赤字をなくしていくが、過度の引き締めは避ける」
それに、円高を防ぐドル買い介入をからめる。
昨年来の三十兆円もの介入には、介入嫌いのGFRB議長が警告したが、それが米国金利を安定させ、世界景気回復に寄与したと改革から漸進改革への路線転換である。
景気は三つの特需を追い風に上向いている。
力強い米国経済、BRICSの興隆、そしてデフレ景気である。
しかし、見逃してならないのは、回復を支えるのはやはりマクロ政策である点昭和恐慌期の高橋リフレ政策と単純には比べられないが、スローデフレに対して金融、財政、通貨政策の三本柱によるスローリフレ策がとられたといえる。
その一方で、改革路線は後退が目立つ。
債務返済より建設を優先する道路公団改革は期待はずれだった。
中央集権志向が抜けない三位一体改革は小手先にとどまる。
企業の競争力を度外視した数字合わせの年金改革は持続性が疑われる。
R、S改革とは比べようがないが、省庁再編や金融ビッグバンなど橋本改革に比べても成果は乏しい。
何より企業改革との落差は大きい。
T路線が転換したのは二○○三年五月だった。
デフレスパイラルの淵をのぞいて、T氏はきびすを返す。
R銀行に対して株主責任を問わずに公的資金注入に踏み切る。
H経済同友会代表幹事はこう振り返る。
「大銀行は国が救うというメッセージが出たとで、海外の投資家は日本への投資リスクが小さくなった。
それが株価を上げ、金融再生にもことで、海制つながった」
MMグループ社長も指摘する。
「不良債権処理が進んだのは、新たな不良債権が減ったためでもある。R銀行への対応が、デフレと不良債権の悪循環から好循環への転換点になった」
T路線の転換は、日本経済の転換に符合する。
歴史が皮肉であるように、経済もまた皮肉である。
モラルハザード(倫理の欠如)をはらむ漸進主義への転換が平成デフレ不況脱出への出発点になった。
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